市進ホールディングス

コラム

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2024.12.26

管理職の「育てる意欲」は育つのか?

細谷です。今年は管理職研修の依頼が例年以上に多かった年で、振り返ってみれば、全国あちこちでたくさんのマネジャーの方たちと話をする機会がありました。

最近の管理職研修では人材育成が必ずテーマになりますが、ここ数年は「新人の特性にあった育成」や「エンゲージメントを高める若手とのコミュニケーション」、「若手社員のモチベーションを高めるマネジメント」といったテーマが多い一方で、特に最近は育てる側(上司側)のモチベーション(育成意欲)の低下を何とかしたいという相談も増えています。

例えば、部下が本社からの出向的な立ち位置で配属になり、翌年の異動がわかっている環境の中で彼らの育成を自部署でどこまでおこなえばいいのかという悩みを持つマネジャーは多くいます。そのようなケースでは、部下をお客様扱いすることなく、経験を積んでもらいながら自部署でも活躍してほしいという期待の一方で、すぐに転出する人材なのだから育成に時間をかけても仕方ないと考えるマネジャーもいて、上司側の育成に対するモチベーションが課題となっています。

また、これには部下側も今の職場を次のステップとしてしか考えていないケースもあって、折角のOJTの仕組みが形骸化してしまうことも時折起きています。

そもそもOJTでは、育てる側(上司側)と育てられる側(部下側)の双方が、組織のビジョンを共有しながら職務を実践し、双方の役割に応じたスキルアップを目指していくわけですが、最近は、育てる側の意欲低下が、育成の質に影響を及ぼしかねないケースも発生しています。

もちろん、育成する側の意欲の有無でOJTの質が左右されてはいけませんし、「人は自ら育つもの」という前提も大切な観点です。その上で上司が目の前の部下の育成を諦めることなく、粘り強く関わっていくための方法を考えたときに、私は2つの視点があると思っています。

1つは、育成を「教育」と捉えなおしてみるということです。言葉のすり替えのように感じるかもしれませんが、学校や塾では、先生と生徒という関係において、生徒を育成するという観点ではなく、指導や教育という認識で関わるのが一般的です。この指導・教育という言葉は、人材育成の領域ではいかにも昭和的ですが、敢えて新人に対しては教育・指導というスタンスに立つことで、OJTの役割が発揮しやすくなると考えます。

実際に私も20年以上前、塾で中学生を教えていたときには、無気力な生徒ややんちゃな生徒には結構苦労し、自分の指導の無力さを感じてきました。それでもそんな生徒と正面から向き合うスタンスが維持できたのは教育という言葉の重みと、自分の指導が相手にはすぐに理解されなくても、何年か先に気づいてもらえればいいという教育的スタンスで接してきたところが大きいと感じています。

もう1つが、OJTには期限があるからこそ上司側が育成のゴールを決めて、その期限の中でスキルや知識を習得してもらうという「育成側の目標設定」の視点です。とりわけ、OJTでの目標設定は部下側に求める場合が多いですが、育てる側も限られた時間の中で「何ができる社員になってほしいのか」といった明確な目標を持って育成にあたることで、育てるモチベーションに寄与する部分があると考えます。

今、多くのマネジャーが、社員の育成について悩みを抱える中で、この教育としての育成観と、限られた時間の中でこそできる関わりが、部下の記憶に残り、いつかのときに「あの時の課長のご指導の意味がようやくわかるようになりましたよ」という言葉で報われるように思えます。

ある意味、管理職の部下を育てる意欲は、部下が鏡となって育っていくと私は考えます。
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