市進ホールディングス

コラム

column
 
2024.06.28

描かれたビジョンの描かれない本質

細谷です。ここ最近は研修の傍ら、ある企業の管理職30名を対象に組織ビジョンの浸透をテーマとしたパーソナルコーチングを実施しています。このセッションでは事前に自身の組織リーダーとしてのビジョンを手書きでスケッチしてもらい、その絵をもとにコーチングで解像度を上げていく流れにしているのですが、この組織で特徴的だったのが、そのスケッチには、「人」、「扉」、「乗り物」、「太陽(光)」、「山」を描く管理職が多いことがわかりました。


ありたい組織像や理想の職場をスケッチで表現しようとしたときに、みなさんなら1枚のシートにどんな絵を描くのでしょうか。

このセッションで私が大切にしているのが、「何を描いたか」ではなく、「なぜそれを描こうとしたのか」そしてそれを「どのように描いたか」を問うようにしている点です。「何を描いたか」を問うと、例えば「笑顔のある職場」や「挑戦する職場」、「一体感のあるチーム」など、これらの言葉の代わりになる状況やメタファーを描く傾向があります。つまり描き手が既にイメージしている言葉をそのままイラストで変換している(説明している)レベルのものです。

一方で、「なぜそれを描こうと思ったのか」と問うと、その絵の前提が問われるため、現在の組織への見方や認識が言語化され、更にはその絵が自身の組織の「本当のありたい姿を描いているかどうか」といったクリティカルな観点で客観的かつ深く洞察することができます。

また、「どのように描いたか」というのは、例えば絵の中にいる人物などの数や大きさやレイアウトなど、描き手が直感的(あるいは無意識)に描いたところを訊くことで、新たな視点を持ち込む効果があります。

「なぜその人は真ん中に描かれているのですか」
「周りの人たちとの関係はどこに描かれていますか」
「この人たちは何に微笑んでいるのですか」
「ここに描かれていない大切なものは何ですか」

描かれた絵の描かれていない部分を訊いていくこのアプローチは、セッションを受けるマネージャーも毎回新たな発見があると言ってくれます。

コーチングの世界では、「ビジョンは記憶できない、故に描き続けることで解像度を上げ、現在進行形で実現させていくもの」と言われています。その意味ではビジョンを絵にするということは、その人のビジョンの一側面を切り出したスケッチにすぎません。

大切なのは、そのスケッチには描かれていない本人の思いを引き出したり、まだ経験したことのない世界の実現に向けて絵を描き直したりするという点です。

最近は組織でビジョンやパーパスを策定したものの、その体現に向けた実践や浸透に悩むリーダーが増えています。こんなときには、言葉から入ったスケッチを説明してもらうアプローチではなく、対話によって大胆に問い直すアプローチに変換することで、様々な視点が詰まった新しいリーダーシップのイメージが生まれてくることでしょう。
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