2024.11.07
登壇準備の負担感から解放される3つのアプローチ
細谷です。社内講師の登壇支援をおこなっていると、準備の段階において講師の方たちから「原稿はどの程度、暗記したほうがいいですか?」「スライドの内容はどのレベルまで解説すればいいですか?」といった悩みを聞きます。特に本人が作成していない教材(先達が作成した教材)を扱うときにこのような質問を受ける傾向があります。
30年前、私は塾の講師として小中学生に国語や社会や英語を教えていたのですが、毎回の授業準備には相当苦労しました。当時の私は「授業準備は完璧が当たり前」と思っていたこともあり、専門外の教科であっても自分が納得するまで突き詰めないと気がすまない感じでしたので、担当クラスが多くなり、担当する授業数も増えてくると、相手が小中学生といえども、かなりしんどくなってきて、体調を崩すこともありました。そこには完璧な授業準備が完璧な授業を生むという自分なりの勝手な思い込みがあったと思っています。
そして経験を積み重ねていくうちに、準備のコツのようなものがわかるようになり、そこにはどんな教科であっても、どんな対象であっても、汎用可能な3つのアプローチで対応できるようになりました。それからは準備に膨大な時間をかけずとも、本番では生徒たちが授業にのめりこみ、完璧ではないけれども最適な授業が展開できるようになりました。現在では、社内講師の方にも時折このやり方をアドバイスすることがあり、以下にご紹介したいと思います。
まず1つめが、やや抽象的なのですが、授業の流れを「旅の行程」に置き換え、本番では講師がそれをガイドする感じで準備をおこなうようにしました。こうすることで、授業の流れがイメージしやすくなり、準備ではその行程を頭に入れることで授業の全体像が明確になっていきました。具体的には1時間の授業であれば、1時間後の「行先がどこで」、そこに行き着くために、「どんな経路で」「どれくらいのスピードで」「どんなビュースポットがあって」「どんな案内をするか」などを頭の中で大まかにイメージします。このことはよくストーリー(物語)にも例えられますが、私の中では授業をストーリー以上に「旅のガイド」に置き換えることで、難しい講義内容であったとしても、教えるべき内容が立体的に構成されるようになりました。授業本番ではその旅を生徒といっしょに楽しむというスタンスになりますので、準備の際は原稿の暗記とは無縁の感覚になっていきます。
2つめが、「シンプルメッセージ」です。これはテキストやスライドの解説にあたるところですが、特に文字情報が多いパートを解説するときに、「何を」「どこまで」「どのくらい」を解説するかは皆さんも悩みどころかと思います。この場合、あれもこれもといったスタンスで臨むと、解説が冗長になったり、ポイントがぼやけますので、1枚のスライドなら、そのスライドから読み取れる情報と伝えたいメッセージを相手がメモをとれるレベルまでシンプルに言語化するとよいでしょう。ただしこのシンプルメッセージは、本番中に思いつきで出てくるものではなく、登壇準備の段階で思考実験を経ながら言葉を紡ぎだしていくことが大切になります。具体的には、情報量の多いスライドや難解なスライドの解説準備をするときに「一言で表すと・・」という枕詞をつけて考える訓練をするとよいかもしれません。
最後の3つめが、「ハイライト」です。1時間の授業の中で、生徒と盛り上がる場面を意図的につくるものです。それは例えば、ある問題に対して別解を求めたり、生徒が当たり前と思っている前提を覆したり、生徒同士で試行錯誤しながら新しいアイデアを引き出したりと、思考する楽しさを感じてもらう場面を1時間の中で最低1か所、意図的に設定することを言います。ここでのポイントは「意図的に」という点で、どんなに知識習得型の授業であっても、どんなに日常生活とかけ離れた授業内容であっても、生徒が1時間の中で1か所、思いっきり考えてみたくなる場面を設定することで授業をダイナミックにしてくれます。
子どもへの授業準備と大人への研修準備とでは、目的もゴールも異なる点はありますが、相手に学びたいと思わせるための工夫や仕掛けは、子どもも大人も共通するポイントがあります。今回ご紹介した登壇準備における「旅のガイド」「シンプルメッセージ」「ハイライト」の3点を意識することで、ご自身が担当する研修や講義準備の負担感が解放されるだけでなく、ご自身の学びへの探究心が深まり、それが受講者の知的好奇心にも繋がってくると感じています。みなさんが人前で教える機会があるときには、ぜひ活用してみてください。