市進ホールディングス

コラム

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2025.02.07

探究世代の新人研修をイマーシブにする3つの視点

細谷です。最近、VRやエンタメの分野でイマーシブ(Immersive)という言葉が使われるようになりました。テクノロジーを駆使してリアルとバーチャルの垣根がなくなり、手軽に没入体験ができる時代が来ていると感じています。

この「没入感」を意味するイマーシブは、人間の学習においても集中力や学習効果を高めていく上で有効な手段になると考えていて、特に最近の新人研修の設計においては、受講者が没入する仕掛けをテクノロジーではなく、アナログの観点から試しています。例えば、グループワークでタスクに取り組ませるとき、彼らが学生時代に慣れ親しんできた探究型の手法を応用することで「没入感」のある展開ができると考えています。ちなみに探究型とは、学習者自らがテーマに関して課題(問い)を設定し、他者との協働の中で解決方法を見出し検証していく一連のプロセスのことをいいます。

今回は、みなさんの組織が4月の新人研修を展開する際に、彼らにどんなアプローチをすればイマーシブな展開になるかを具体的に「マインドセット」「演習素材」「演習運営」の3つに絞ってその設計ポイントをお伝えします。

① タスクのやり方ではなく、タスクへの「向き合い方」に焦点を当てる設計
まず1つめですが、受講者が研修に主体的に取り組むためのマインドセットについてです。これは研修に対して個人ではなくチームとして「どのように向き合うか」を彼ら自身で話し合いながら合意形成することを意味していて、その秘訣は研修への向き合い方を「自分たちで決める」というところにあります。このマインドセットを1回挟むことで、その後の演習展開がとてもスムーズになるのですが、ここの落とし込みに手間をかける意図としては、チーム内にフリーライダーが生まれるのを防ぐ、無用なコンフリクトで時間を浪費するのを回避できる点などにあります。つまりは、研修のグランドルールを講師が設定するのではなく、ルールそのものを彼ら自身に考えてもらい、納得感をもって研修に臨んでもらうための準備といえます。今の世代は学生時代から校則も「ルール・メイキング」と称して自分たちで策定し運用してきた経緯があります。研修においても最初の段階でワークへの「向き合い方」を考えてもらい、言語化し、合意形成を求めることで納得感のある研修となります。そして振り返りにおいては、このルールに基づいた行動が各自でとれていたかを検証するとよいでしょう。

② 不完全な素材を修正するアプローチ
2つめが、演習素材の設計についてです。これは最近の世代の「失敗したくない」「正解を知りたい」という意識を逆手にとったアプローチで、先に失敗事例や不完全な素材を示し、その素材をもとに改善や修正を求めていく手法になります。例えば、ビジネス文書を指導するときに模範例から必要なポイントを講師がレクチャーするのではなく、最初から不完全な素材(良くない事例)をもとに個人ワークとグループでの協働学習で彼ら自身で解決を図っていきます。そこでは不完全な箇所の指摘と理由、改善案を個人の見解と他者の見解の違いに焦点を当てて可視化することで彼ら特有の学びに繋がります。このアプローチは文科省が実施する全国学力学習調査や大学入学共通テストでも見られる手法で、正解を作るというよりは、不完全な理由の検証と最適解に近づける多角的なアプローチを考えさせていくという点で最近の教育手法に近いものになります。誤解を恐れずに言うならば、これからの研修は、講師は教えるということを手放し、受講者の学びの欲求を引き出すプロセスとデザインに注力することで、研修のありかたが大きく変わっていくと感じています。

③ 練習場面に価値を置く工夫
最後の3つめが、研修内のスキル習得に焦点を当てた演習運営の考え方です。一般的に新人研修におけるビジネスマナーのパートでは、講師が受講者に手本を見せて「さぁやってください」という手本→即実践という流れでおこなわれますが、若手の中ではこれは学習というよりも「体験」「お試し」という感覚に近いというのが彼らのアンケートからわかってきました。彼らにおいてはしっかりとスキルや知識を研修内で習得し安心して現場で活用したいという気持ちがあるため、プログラムの展開としてロープレや実演を行う際は、手本を見せたあと、いきなりやってもらうのではなく、個人やペアなりで「練習」というフェーズを挟み込み、その練習時間内でスキル習得に価値を置く設計にすると集中力が高まり習得が促進されていきます。一方で多くの組織では、「研修内ではスキル習得まで時間をかけられない」「スキルはOJTで習得すべきもの」という意見もあるかもしれません。しかし、最近の若い世代は研修そのものをスキル習得の機会ととらえる人たちも多く、OJTではスキルを安心して使えるフェーズとしてとらえるようになってきています。その意味では、みなさんの現状のプログラムの中で「研修内で習得すべきもの」「研修期間中に習得すべきもの」「現場で習得すべきもの」という割り振りを明確にしてからトレーニング内容を設計していくとよいでしょう。また、練習させる際は事前に習得できたかどうかを受講者自身で確認できる「評価基準」を設定した上で取り組むようにするとイマーシブ効果は高まっていきます。

このように最近の新入社員が学生時代に経験してきた学び方を、探究学習の観点から企業教育の一部に盛り込むことで、彼らの学習意欲に働きかけるきっかけが作られると感じています。もちろん、これらのアプローチは若い世代におもねることではなく、彼らの価値観を理解した上で組織へのエンゲージメントを高めるための手段になります。教育において一斉一定一律の展開が機能しにくくなってきた時代に、今回の3つの視点を使って学びのアップデートを図ってみてはいかがでしょうか。
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