市進ホールディングス

コラム

column
 
2022.06.15

テンポ設定と共鳴のチームワーク

今月から女子アイスホッケー元日本代表の岩原知美さんが、
市進コンサルティング事業研究所の新しい仲間として加わってくれました。

女子アイスホッケー日本代表といえば、スマイルジャパンとして知られていますが、
岩原さんは平昌五輪のときにスマイルジャパンに代表入りし見事入賞を果たしました。

そんな岩原さんの経歴には華々しいものがありますが、その一方で、代表入りするま
での数々の挫折や、所属チームをまとめる上での苦悩などもあり、それらと向き合い
ながら一つひとつを解決し夢を掴み取ってきた経緯には興味深いものがあります。

アイスホッケーは言うまでもなくチームプレーの良し悪しが勝敗に影響し、
個の強さと併せて組織としての強さが求められます。

一般的にプロであっても一流の選手を集めただけでは最強のチームにはならないとも
言われる中で、岩原さんの所属していた日本代表チームでは、召集後の3週間という
短期間で「勝てるチーム」に成長していきました。

そこで行われていた「チームビルディングの秘策とは何なのか」、岩原さんに訊いて
みたところ、興味深い答えが返ってきました。

それは、チームメンバー全員から「3つの視点で」フィードバックを受けるというも
のです。

フィードバックの3つの視点とは、相手の「プレーで尊敬するところ」「プレー以外
で尊敬するところ」「一人の人間として尊敬するところ」の3点で、名刺サイズの
カードに1枚ずつ全員分のフィードバックを書き出して互いに交換をしていきます。

私も実際に岩原さんのメッセージカードを見せてもらいましたが、どれも相手の行動を
詳細に観察していないと書けないものばかりで、とても具体的なフィードバックでした。

この3つの視点におけるフィードバックの特徴は、プレー中に見せる姿とプレー以外
で見せる姿を分けて観察させることで「相手を多面的に見る」という点です。多面的
に見るためには、様々な場面での観察が必要となり、プレー中だけでなく、それ以外
の観察から見えてきた結果が、3つめの視点の「一人の人間として尊敬するところ」の
認識に繋がってきます。

一方で、フィードバックを受ける側も、自分の認識とは違うフィードバックを受ける
ことで、新たな気づきを得る効果があります。

更に、3つめのフィードバックは、自分の存在価値を肯定してもらうメッセージでも
あるため、チームメンバー全員から全肯定される感覚は、自分の存在がチームメン
バーの存在の上に成り立っているという気づきに繋がることも多くなるようです。


また、岩原さんが話してくれた興味深い話でメトロノームの実験エピソードがあります。

これは同じテンポで設定された10台のメトロノームをブランコ台のような揺れる板の
上に乗せて鳴らしていくと、最初は違うテンポで鳴っていたメトロノームが次第に揃い
始め、2分もするとテンポが完全に揃うというものです。

実際に私もやってみたのですが、不思議なことにバラバラだったメトロノームの音が
最後は必ず同じテンポで揃うようになります。

この実験のポイントは、メトロノームが揺れる台の上で互いに影響を受ける環境に
あるということと、個々のテンポの設定は同じにしておくということです。
土台が動かなかったり、最初のテンポ設定がバラバラの状態ではいつまでたっても
音が揃うようにはなりません。
同じテンポ設定と互いに共鳴しあう環境に個体を置くことでこの実験は成立します。

全日本の最強チームであっても、その練習中にチームの雰囲気が悪くなり、連携がス
ムーズにいかないこともよくあるそうです。そんなときに、当時のチームコーチが
メトロノームを使ったこの実験を選手たちの前で実演し、今何をすべきかを選手に
考えさせる場面があったと岩原さんは話してくれました。

チーム競技にチームワークが重要なのは言うまでもありませんが、そのチームワーク
を形成する要素には、メトロノームの実験でいうところの「共通のテンポ設定」と
「針の揺れが互いに影響しあう環境」が不可欠と言えそうです。

テンポを目標、台の上で揺れる環境をチームメンバーの感情と例えるならば、
人と人との関係がつくる組織形成においても、共通の目標設定があり、「他者に与え
る言葉」と「他者から受ける言葉」が互いに共鳴しあったときに、強固な組織が
形成されていくものと感じています。
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